この記事では、こんな疑問に答えます。
同性カップルで「妊活」を始める際に、SNSやネットで知り合った人から精子提供を受けようと考えていますか?
同性カップルの場合、どんなに愛し合っていても自然妊娠ができないため、第三者から「精子提供」をしてもらう必要がありますよね。
最近では、SNSやネットで「無償で精子提供しています。○○人妊娠実績あり!高学歴」なんていうアカウントもよく見かけます。(なんならTwitterでフォローされたり…)
しかし、安易にこういった素性の分からない人から精子提供を依頼してしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう可能性があります!
そこで、この記事では【精子提供でトラブルを避けるために気を付けるポイント】を紹介します。
私自身もLGBTQ当事者であり、第三者からの精子提供で妊娠・出産しました。現在はパートナーと3人の子どもを育てています。
記事で紹介するトラブル事例や気を付けるポイントを知ることで、リスクを避けながら精子提供者を見つけることができるはずです。
より安全に「妊活」をスタートできるよう、同性カップルのみなさんの力になることを願っています。
25歳で初めて女性と交際。その女性こそが現在のパートナーである。
2018年に養子縁組。その後すぐに海外精子バンク(Cryos International)を利用して妊活をスタートする。
2019年に顕微授精でYuriが妊娠→2020年に女の子を出産。
2020年に人工受精でパートナーが妊娠→2021年に女の子を出産。
2021年に凍結胚移植でYuriが妊娠→2022年に女の子を出産。
現在は、パートナーと3姉妹の子育て中。
・SNSやネットから精子提供を受けるリスク
・過去のトラブル事例
・精子提供を受けるカップルが気を付けるポイント
・安全に精子提供を受けるおすすめの方法
SNSやネットを利用して「精子提供」を受けるリスクとは?

【SNSやネットを利用して精子提供を受けるリスク】は、以下の7つが挙げられます。
①感染症
②遺伝病
③近親婚
④性的トラブルに巻き込まれる
⑤提供者が育児に介入してくる
⑥子どもの出自を知る権利が守られない
⑦ドナーの経歴詐称
それでは、上記を詳しく解説していきますね。
①感染症
まず最初に挙げられるのが「感染症」のリスクです。
医療機関では、精液採取後に病気がみつかるリスクを考慮して「凍結保存した精液のみ」を人工授精に使用します。一方、個人間では採取した精液をそのまま使用するため、感染症などのリスクにさらされることとなります。
実際に、AIDで精子提供していた慶應義塾大学病院では凍結した精子を用いて、半年後に感染症がないということを確認してから使用しいます。
なぜなら、感染しても実際に血液検査の抗体として検査で引っかかってくるのは数か月後ということがあるからです。
したがって、SNSやネット上の精子提供の場合、いくら「性病検査」を直近で受けているからといってHIVや肝炎などのウイルス性の疾患がうつってしまう可能性があるのです。
最近では、インターネット検索でも「精子提供者」を名乗るドナーが増えてきましたよね。
実際、「精子提供者」「精子バンク」「精子ボランティア」のキーワードを打ち込むと、140ものサイトがヒットします。調査によると、責任者名や提供者・被提供者間の契約書の有無、感染症・精液検査の有無、遺伝検査や家族歴への言及などをチェックしていくと、最終的に基準をクリアしたサイトはわずか5つだったそうです。
つまり、96.4%のサイトが安全ではないと判断されたということです。
このことを念頭に置いて、精子提供者を探す時には慎重にドナーを見極めていく必要がありますね。
②遺伝病
SNSやネット経由で精子提供を受けるなら、「遺伝病」のリスクも考えなければなりません。
ドナーがなんらかの遺伝病を持っていた場合、その遺伝的な病気が子どもに引き継がれる可能性があります。
遺伝病の情報は個人間では正確に把握することが難しく、自己申告するにしても曖昧にされてしまうことがほとんどです。
SNSやネットでドナーを探すときは、そういったリスクも念頭に置く必要がありますね。
③近親婚
盲点なのが、「近親婚」のリスクです。
きちんと企業が運営する精子バンクなら、「1人のドナーから10人妊娠が判明した時点で使用を禁止する」というような決まりがあります。
一方で、SNSやネットでの精子提供者は近年増えつつありますが、きちんとした法整備がされていないのが現状です。
そのため、SNSやネット上のボランティアドナーに依頼が集中することもあります。すると、1人のドナーから50人〜100人以上子どもが生まれるなんてことも出てくるのです。
そうなると、将来子どもが血縁のある人と偶然結婚し、子どもを作る可能性が高くってしまいます。
この問題に関しては、ドナー側も善意で行なっており、精子提供を必要とするカップルも藁にすがる思いで依頼している場合が多いので規制が難しかったりもします…。

④性的トラブルに巻き込まれる
考えられるリスクの4つ目として、「性的トラブルに巻き込まれる可能性」があります。
精子提供者の動機や倫理観もさまざまで、タイミング法(性行為)をするほうがシリンジを使うよりも妊娠する確率が高いとして執ように性行為を迫るケースがあります。
しかし、シリンジ法より性行為のほうが妊娠する確率が高いというエビデンスはありません。
さらに、「精子提供するので、注入するところを見せて欲しい」というような、明らかな下心を持つ提供者も残念ながらいるようです。
密室での性暴力など深刻なトラブルの危険もあるため、精子提供の際はパートナーや知人に立ち会いして貰う方が良さそうです。
⑤提供者が育児に介入してくる
精子提供の際に考えられるリスクの5つ目は、「提供者が育児に介入してくる可能性がある」ことです。
これは、カップルの考え方にもよりますが「提供者と積極的に交流していきたい」もしくは「育児に関しても、共に行なっていく方がいい」と希望する場合なら問題ないかと思います。
一方で、「提供者と関わらない」と決めている場合は問題になるかもしれません。
生まれてきた子どもの容姿を提供者に知らせてしまった場合、「子どもが提供者に似ている」ということで自分の子のような愛着がわいてしまい、養育に介入する可能性があります。
さらに、提供者と依頼者は「面会」もしくは「SNS(ネット)」でのやり取りを経て精子提供を行っているため、提供者が依頼者の個人情報を把握しているのにも注意が必要です。
⑥子どもの出自を知る権利が守られない
続いて6つ目のリスクは、子どもの出自を知る権利が守られない可能性があることです。
日本には、「子どもが出自を知る権利を規定する法律」がありません。
その中で、個人間で精子提供を行う場合、
・子どもに告知を行うか
・将来提供者と出生児の面会を行うか
などの判断が依頼者と提供者に委ねられてしまい、「精子提供の事実」、「子どもの成長に合わせた告知の適切なタイミング」などが尊重されないケースがあります。
万が一、子どもが「提供者の情報は知りたくない」と思っていても、提供者が胎児認知をした場合には戸籍に反映されるため嫌でも真実を知ってしまいます。
さらに、SNSやネットでの提供ではドナーの個人情報を知る手段がないため、反対に「子どもが真実を知りたい」もしくは「提供者に会いたい」と願った場合にそれが叶わないということも起こります。
⑦ドナーの経歴詐称
最後に、「ドナーの経歴詐称のリスク」についても触れていきます。
これは、最近ニュースでも訴訟問題として問題になりましたが、SNSやネットではいくらでも嘘をつくことができてしまいます。
特に同性カップルの心理として、「できるだけ信頼できる人」、「できればしっかりとした経歴を持った人」、「きちんとした会社に勤めている人」など、少なからず希望があります。
そのため、精子提供者はできるだけ自分を選んで貰おうと嘘の経歴を載せることもあるでしょう。
もし、妊娠後にそれが判明すれば同性カップルの心に大きな傷を残してトラブルに発展します。
さらに、同性カップルは2人目を望む場合もできるだけ同じ提供者に依頼したいと考えるケースも少なくありません。
そうなると、嘘の経歴を載せる提供者には頼みづらいですし、また新たに提供者を探さなくてはなりません。
SNSやネットでの個人間提供にはこういったリスクが潜んでいるのも忘れてはいけませんね。
精子提供で過去に起こった訴訟トラブル【3つの事例】

ここまで、SNSやネットから精子提供を受ける際のリスクを知ってもらえたかと思います。
続いては、【精子提供で過去に起こった訴訟トラブル】として3つの事例を紹介していきます。
・事例①:ドナーの経歴詐称(日本)
・事例②:ドナーの虚偽申告(アメリカ)
・事例③:ドナーの超過提供(オランダ)
事例①:ドナーの経歴詐称(日本)
この訴訟トラブルはニュースでも大きく取り上げられた為、記憶に新しい人も多いのではないでしょうか?
この事例では、会員制交流サイト(SNS)で知り合った男性から精子提供を受け、子を出産した東京都内の30代の女性が、男性が国籍や学歴を偽ったことで精神的苦痛を受けたとして、約3億3000万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴したというものです。
この事例では、依頼者は同性カップルではなく既婚女性でしたが、提供者が経歴を偽ったことでトラブルに発展したケースです。
具体的には、
・京大卒→静岡大卒
・独身→既婚
・日本国籍→中国籍
というように、依頼者が条件として提示していた「学歴」と「国籍」を偽っています。
この事実を妊娠中に知った依頼者はショックで「子どもの顔が見られない」状態になり、子どもは児童福祉施設に預けられることになりました。
こんなニュースを聞くのは本当に辛いです。
どんな子どもも望まれて生まれてくるべきなのに、経歴詐称によって傷付く人が出てきてしまった事例です。
事例②:ドナーの虚偽申告(アメリカ)
続いては、アメリカの事例ですがこちらも「ドナーの虚偽申告」によるものです。
事例概要としては、子どもを授かりたいと心に決めた夫妻が「精子バンク」で精子を購入する選択をしました。
選んだのは、「マルチリンガル」で「博士号取得に励んでいる」男性でした。
しかし、出産後に子どもが妻由来ではない遺伝病があることが判明し、長期入院となってしまったのです。
さらに、「博士号はもとより、学位すら持っていないこと」や「統合失調症」があることも次々と明らかになったのです。(統合失調症は遺伝の可能性がある精神病とされている)
そして、後に精子提供者は窃盗罪で逮捕されていることも分かったのです。
その後の調査で、精子バンクではきちんと検証を行なっていなかったことが分かりました。
「精子バンクを介しているから安心」と思いたいところですが、きちんと信頼できる会社を探すことが大切ですね。
事例③:ドナーの超過提供(オランダ)
次はオランダで実際に起こった事例です。
概要としては、30代独身女性が精子提供者を探すWebサイトで見つけたドナーに精子提供を依頼し、子を出産しました。
出産後、SNSで「同一人物に精子提供してもらい出産した別の女性」と繋がります。
女性は当時2人目も提供者に頼もうと考えていましたが、思い切って調査することにしたのです。すると、提供者は彼女を含め175人の子どもの父親になっていることが判明したのです!
オランダは人口1,700万人の小さな国なので、お互いが知らないうちに出会い近親婚する可能性が高くなります。
SNSやネットでも近年、「50人妊娠実績がある」などと謳うドナーもいますが、こういったリスクが潜むことも考えていかなければいけませんね。

【同性カップル必見】精子提供を受ける際に気を付けるべき5つのポイント

ここまで、「実際に精子提供で起きたトラブルの事例」を紹介していきました。
上記のようなトラブルに巻き込まれないためにも、ここでは【精子提供を受ける際に気を付けるべき5つのポイント】を紹介していきます。
・ポイント①:ドナーの信頼性を確認する
・ポイント②:健康状態の確認
・ポイント③:「匿名」か「非匿名」か
・ポイント④:契約を交わす
・ポイント⑤:できるだけ2人きりで会わない
ポイント①:ドナーの信頼性
最も大切なポイントですが、「きちんと信頼できるドナー」を選ぶことが挙げられます。
SNSやネットでは「ドナーの信頼性」をはかることが難しいですが、
・直接、勤務先の社員証や卒業証書を提示して貰う
・何度も面談をして提供者のパーソナリティを把握する
・信頼できる人からの紹介のみ会う
など、できるだけリスクを避けるよう条件を厳しく設定した方がいいでしょう。
ポイント②:健康状態の確認
ここでいう健康状態とは、「ドナーの病歴」や「性病検査結果」、「遺伝病のリスク」、「家族の病歴」のことです。
やはり、個人間の提供だと直接精液を注入することになるため、感染症のリスクが格段に上がります。
提供前にきちんと「性病検査」をしてもらうのは大前提です。
さらに、子どもに受け継がれる可能性のある「遺伝病」や「家族の病歴」なども詳しく聞いておくべきです。
とはいえ、なかなか証明しづらい部分であるため、提供者がいくらでもごまかせてしまうのも否めません。
ポイント③:「匿名」か「非匿名」か
これは、「子どもの出自を守る権利」にも関わることなので、カップルでよく話し合いが必要です。
将来、子どもに出自を知らせるなら「非匿名」のドナーを選ぶべきですし、そうでないなら「匿名」でも可能です。
参考までに私の場合は、「子どもが18歳になったら、本人が望めば提供者の情報が知れること」を条件に精子提供者を探しました。
そのため、選んだドナーは「非匿名」です。
このように、将来子どもに出自をどう知らせていくかは、実は「ドナーを探す」段階で話し合わなければいけないことなのです。
ポイント④:契約書を交わす
精子提供を行う際に「契約書」を交わすことも有効です。
きちんと取り決めを書面に残しておくことで、相互に安心できるのではないでしょうか。
例えば、「出産後は子育てに一切介入しない」や、「養育費を提供者に請求しない」などお互いを守るために契約書は有効です。
ポイント⑤:できるだけ2人きりで会わない
最後に、精子提供を受ける際は「できるだけ2人きりで会わない」ようにすることです。
特に、精子提供はビジネスホテルなどの密室で行うことも少なくありません。
その際に、ドナーから「タイミング法で試したい」、「注入している姿を確認したい」などの要求がエスカレートし、思わぬ性被害に巻き込まれる可能性があります。
そういったトラブルに巻き込まれないためにも、提供時はパートナーと2人で受け取りに行くように配慮した方が安心かもしれません。
安全に精子提供を受けるおすすめの方法は○○です

ここまで読んで、
というような声もあるはずです。
結論から言うと、安全に精子提供を受けるおすすめの方法は「精子バンク」です。
なぜなら、精子バンクで提供される精子は、品質管理や健康状態の管理が徹底されており、性病リスクや遺伝子疾患リスクが低いとされているからです。
さらに、提供者と直接会うこともないため性暴力に遭うこともありません。
そして、あらかじめ提供者を「匿名」か「非匿名」かを選べるようになっているため、子どもの出自を知る権利も守られます。もちろん、1人のドナーから生まれる子どもの数には制限があるので「近親婚」の心配もありません。
とはいえ、日本にある精子バンクは以下のように利用条件があり、同性カップルが利用することができません。
・法的に認められている夫婦
・不妊原因が夫側にあり、夫自身が精子を持っていない夫婦
・夫婦の健康、精神、経済状況が安定している
一方で海外では、同性カップルが利用できる民間の精子バンクがあります。
特にアメリカでは、精子バンクの歴史は長く、精子提供に関する規則などが整えられているため企業数も多いことが特徴です。
このような国で「精子バンク」を利用し治療を受けることで、同性カップルでも妊娠することが可能です。
実際、私とパートナーも海外にある精子バンクを利用してそれぞれが妊娠しました。
利用した精子バンクはデンマークにある「Cryos International」という会社です。
私たちが利用した2018年頃は、サイトもやり取りも全て「英語」だったのですが、今では日本窓口もでき、全て「日本語」で取引することができるようです。
そんな私の経験から、【海外精子バンクを選ぶメリット・デメリット】を以下にまとめました。
(精子バンクを選ぶメリット)
√精子提供者の情報がわかるため安心
√会社が仲介しているためトラブルが少ない
(精子バンクを選ぶデメリット)
√費用がかかる
√日本人がいない
そんな方もいるかもしれませんね。
もう1つ、少しハードルが上がりますが安全な方法として、「お互いの家族(親族)からの精子提供」という選択肢もあります。
もちろん、依頼する前には家族や親族の説得は必須ですが、お互いの父もしくは兄弟から提供してもらうことで、血の繋がりも生まれます。
これから妊活を始めるカップルさんも、上記で紹介したような選択肢があることを知った上で、自分たちが納得できる方法を選ばれるといいですね。
もちろん、SNSやネットで素晴らしいドナーさんに巡り会えることもあります。
精子提供方法に正解はありません。
パートナーとよく話し合って決めた選択こそ自分たちにとっての「正解」だと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか?
同性カップルにとってドナーを探すのは、想像以上に大変な過程です。
SNSやネットで無償提供ドナーを探すにも膨大な時間と労力がかかりますし、精子バンクを利用するにもお金がかかります。
しかし、その分パートナーと「子どものいる未来」を深く考えて妊娠に臨むので、誰一人として望まれない子どもはいません。
本記事を読んで、少しでも精子提供におけるリスクを下げ、信頼できるドナーさんを見つけられることを願います。
ドナーさんが見つかって本格的に妊活をスタートするようになったら、別記事で「精子提供のやり方」や「シリンジ法」について具体的な手順を公開しているので、ぜひ参考にしてくださいね。

